第一弾は、「クロコ」です~

クロコが、いつ家にやってきたのかは定かではありません。なぜなら、僕が物心ついたころには、既に家にいました。父が若いころ手に入れたものらしく、幼い僕にいつも「こんな黒い招き猫は、滅多にいないから珍しいんだぞぉ~」と、自慢気によく話したものでした。僕はまだ小さかったので、よくわからずに「ふぅ~ん」と、いつも生返事でした。でも、毎日家に居るものだから、知らず知らずのうちに招き猫は「黒い」ものだと自然に心に浸みついていました。確かに、いま思えば、ただ首輪に鈴を付けただけで、他には何も持たず、とにかく全身真っ黒。しかも目は「三白眼」で、結構眼光鋭い目つきで「眼飛ばし」している、いかにも只者ではない雰囲気がムンムンと漂っているヤツなんです。いわゆる「愛くるしさ」はみじんもなく、どちらかといえば「猫」の素性がそのまま残っているようなヤツ。 もし、できることならば父に直接、その思いを聞いてみたかったなぁ・・・。
何年振りかで、戸棚の奥から彼を見つけたとき、幼かった僕、若かった父、貧しかった家、ヒビ、アカギレの絶えなかった冬、遠ざかっていこうとする「僕の昭和」がまざまざと蘇ってきました。
でも、「見つかって良かった・・・」僕はそっと、呟いた。

哀愁の匂い立つ後ろ姿には、ちょっと眼の奥がジーン! ときました。